分かってる人にはあまりにはっきり分かっていて、「謎」でもなんでもないと思いますが、第2巻の冒頭、第6話に、絶対に見逃せないドラマが仕込まれています。
というか、読みきり版ではこれがクライマックスになっている、それくらい重要なシーンですね。
第2巻19~20ページ、第6話で、将也は5年ぶりに再会した硝子に、「俺とお前 友達になれるか?」といきなり聞いています。


なぜ将也は、急に「友達になれるか?」なんてことを聞いたのでしょうか?
それは、
それこそが、かつて硝子が将也に手話で語りかけたことそのものだったからです。
このシーンでも、よくみると将也の手話の1つ1つに、かつての小学校時代の硝子の姿が挿入されているのが分かります。
そして、実際にこのシーンがどこにあったのかを遡ると、第1巻114ページ、第3話にあります。

将也は、このときの硝子とまったく同じ手話を返しているのです。
私は手話はまったく詳しくありませんが、さすがにこれくらいなら検索して調べられるので調べてみたところ、予想どおり、
http://www.symphony.co.jp/fukusi/shuwa/kyositu/lesson07_1.html最初のが「あなた」(さらに前に「私」)で、
http://matome.naver.jp/odai/2128012528450037201/2128012559750047203次が「友達」
だと分かります。
つまり、将也が手話をやりながら口にも出しているとおり、「友達になろう」と言っている、ということですね。
かつて、硝子が将也に対して勇気をふりしぼって語りかけた「あなたと友達になりたい」、それを5年後の将也がまったく同じ形で返してきた。しかも手話を勉強して、筆談ノートを持って…。
これ、単純に「いい話だなあ」というのを超えて、すごいドラマを内包しているのです。
そこについて少し考えてみたいと思います。
そもそも、なぜ小学時代の硝子はあの場面で、「友達になりたい」という意思表示を「
手話で」伝えようとしたのでしょうか?
そんなの、まず伝わりっこないのに。
それは、改めてあの場面を振り返るとわかるとおり、「
筆談ノートを奪われたから」です。
だとすると、どうなるのでしょうか。
硝子は筆談ノートに、まず「ごめんなさい」と書きました。
その後、
もし筆談ノートを奪われなかったら、きっとその筆談ノートに「友達になりたい」と書いたのだ、と思うのです。
このときの硝子が、かなり積極的に将也との友達関係を求めていたことは、第1巻109ページで将也がつぶやいているとおり、硝子が「わざわざ筆談ノートをかかえて将也を待っていた」ことからも分かります。
そして、筆談ノートを奪われて「友達になりたい」という「こえ」を伝える手段をなくした硝子は、まず将也の手を握ることでそれを伝えようとし、それでも伝わらなかったのでこんどは手話で「友達になりたい」と伝えたのです。
この、当面考えていた手段を奪われてもくじけずに別の手段で自分の気持ちを伝えようとするメンタリティは、第23話での告白シーンを彷彿とさせます。筆談ノートで伝えようとしたがかなわず、そこで手を握ってもだめなら、さらに手話までやってしまおうという「押し」の強さは、3回も告白を繰り返した第23話のシーンとかぶるものがありますね。
…で。
その小学生時代の「友達になりたい」というメッセージの結果は?
将也らに嘲笑され、筆談ノートを池に投げ捨てられるという、最悪の結果に終わりました。
当初「友達になりたい」と伝えるはずだった(わざわざ待ち伏せしてまで)筆談ノートを池に投げ込まれてしまった硝子の心の傷はどれほど深かったでしょうか。
これについては第4巻収録見込の第28話で描かれますが、結絃いわく「あの時は きっと ねーちゃんも 限界だったんだ」というくらいで、硝子の人生のなかでも最も辛い経験だったようです。
だからこそ。
将也が、(かつて他ならない自分自身が投げ捨てた)
筆談ノートをもって5年ぶりに現れ、わざわざ
手話を覚えて、かつて自分が投げかけ、そしてかなわなかった
「友達に…なれるか?」というメッセージを伝えに来た。
そのことに対する衝撃はどれほどだったでしょうか。
「あのとき、伝わらなかったこえ、かなわなかった願い」が5年の歳月をこえて伝わった瞬間だったのです。
しかも、そこには単なるきれいな感動だけではなく、将也視点から見れば「決して簡単には許されない罪」の提示も同時になされています。
読みきり版では「クライマックス」であった物語が、連載ではまさにここがすべての始まりになっています。
私は、このシーンに盛り込まれた、幾重にも折りたたまれた複層的なドラマの濃密さを読むたびに、この作品の凄みを思い知らされる思いです。
そして最後に。
ここには新たな「なぞ」があります。
この、小学時代に硝子が「友達になりたい」とわざわざ伝えにきた日は、将也が硝子の補聴器を窓から投げ捨て、さらに反対の耳を引っ張ってケガをさせた、まさにその日です。
こんな暴力を受けた日に、なぜわざわざ待ち伏せしてまで(しかも将也だけを狙って)友達になろうとしたのか…?
この謎も、今後解ける日がやってくるのでしょうか。