読みきり版は、概ね連載版の第1話~第6話までの内容を含んでいます。
当然、ボリューム的には連載版のほうがはるかに大きいため、基本的には読みきり版で描かれている内容は連載版でも描かれています。
その例外が、以前のエントリでもご紹介したとおり「連載版では硝子の内面描写がカットされている」ということでしたが、実際にはそれ以外にも「変更された部分」がいろいろあります。
1.喜多先生が少し有能に描かれている。
連載版では、「障害はかわいそうだからみんなで支えなきゃいけない」的なステロタイプの弱者論以上のことを考えておらず、そういう場に生まれる摩擦をどう解消するかといったことにはまったく行動できない、ぶっちゃけ「無能」な先生として、わりと単純で分かりやすく描かれている「きこえの教室」の喜多先生ですが、読みきり版ではもう少し「らしい」行動をとっています。

読みきり版14ページ。合唱コンクールから硝子を外そうとする担任の竹内に対し、「決めるのは私たちじゃなくて本人」と強く返しています。そして、硝子がうたうときに別の生徒に「音程調整」をさせる、といった工夫もさせるなど、それなりに「本人目線で」奮闘しています。(それでもうまくいかなかった、という物語として描かれているわけですね。)
これに対して、連載版では「オンチなのは障害だから仕方がない(だから受け入れろ)」といった、クラスに反発を招きそうな発言をする先生に描きかえられていますね。
2.佐原がいない。
これは1.とも関係しますが、喜多先生による「手話を覚えましょう」エピソードは、読みきり版にはありません。
このエピソードは、喜多先生の無能ぶりを強調する目的と、あとで登場させるために佐原というキャラを出す目的、そして将也が手話に興味をもつきっかけを設定するという目的で連載版で新登場したのだとわかります。
3.竹内先生が性格づけされてない。
これも1.とも関係してますが、連載版では微妙に自意識が強く、将也への説教に「自己責任」とか「俺に恥をかかせるな」といった、妙に「大人の論理」をふりかざすキャラとして設定されている担任の竹内先生が、読みきり版では比較的平凡な「事なかれ主義の無責任な先生」として描かれています。
4.植野が単なるクラスメート。
連載版では、硝子と並ぶ屈指の人気をもち、将也をめぐって硝子と三角関係を構成する超重要キャラクターとされている植野ですが、読みきり版では単なるクラスメートのOne of themです。
読みきり版では、将也転落後のいじめ描写で植野はほとんど登場しませんが、その数少ない出番のなかでは「普通にいじめる側」になっています。
5.すべて将也視点で描かれている。
これは以前のエントリで書いたとおりですが、これによって変更されている面白いシーンを1つ。
高校生になっての将也と硝子の再会シーン。「友だちに…なれるか?」というあの名場面で、連載版では「将也視点」なのでこうですが…(第2巻21ページ、第6話)

読みきり版では「第三者視点」なのでこうなってます。(読みきり版60ページ)

連載版では見えなくなっている、このシーンでの硝子の口元の表情が見えてお得な感じですね。(笑)