第5巻の前半は、「映画制作?編」ということになるわけですが、その第5巻収録話の1話目となるであろう第33話で、不思議なやりとりがあります。
なし崩し的に映画の参加メンバーが決められていく中で、なぜか硝子だけが意図的に排除されているような形になっていたのです。
そこに気づいた将也がそのことを話すと、植野、川井、真柴が、逆に将也がおかしなことを言っているかのような目で将也を見る、というシーンがあります。

第5巻16ページ、第33話。
もちろんこれは「意図的ではない、ほんとに忘れていただけ」という解釈もできるのですが、どちらかというと、これは「植野が提案して川井が主導した」ととらえるのが一番自然だと思われます。植野は、
・そもそも硝子のことが嫌い。
・硝子が将也に対する恋のライバルであることに気づいている。
・第1巻82ページ、第2話で、音痴の硝子に対して「どうする合唱コンクール?」と言っている。高校になった今も、同じような意味で、障害をもった硝子を積極的に映画撮影のような活動に参加させるつもりはない。
一方、33話の展開をみても、参加メンバー選定を仕切っているのは川井です。
学校が違う組のなかで、佐原と結絃には「衣装担当」とか「カメラを貸してくれる」など役割を限定させたやや消極的な表現をしている一方で、植野についてはそういう表現をせず、かつ将也に「植野もメンバーだ」と強く説得しているなど、メンバーごとに扱いを変える意図が強くうかがえます。

第5巻13ページ、第33話。
特に最後のポイントで、橋メンバーのなかで結絃と佐原は「選ばれて」いるのに硝子が除かれていることもあり、少なくとも川井が意図的に硝子をメンバーからはずしたことはほぼ間違いないでしょう。
では、そこにはどういう意図が働いていたのか。
川井の映画参加の目的が、真柴と親しくなること「だけ」なのは、ほぼ確実です。将也と真柴を引き合わせて真柴を映画に参加させたところから、川井にとってはそこに自分も割り込んで真柴と一緒に映画を撮る(ある意味、永束のプロジェクトを乗っとる)のはすべて作戦のうちだと思われます。
そして、この映画撮影が、真柴と将也の関係が前提で成り立っているところから、川井とすると将也が映画に積極的に参加することも重要だということになります。
川井は、植野が将也のことを好きだと知っていますし、将也については植野のことを憎からず思っていると勘違いしています。
そう考えると、硝子の存在は「お邪魔虫」だということになりますね。
ということで、私の考える、第33話で発生した硝子排除の構図は以下の通りです。
真柴が将也と永束の映画撮影企画に興味をもっているのを見て、川井は真柴と仲良くする機会として映画撮影を利用することにした。
真柴が映画に参加しようとしているのは将也に対する関心ゆえだと知っている川井は、将也をなんとしても映画撮影に引き留めておく必要があった。
そこで、映画撮影を通じて将也には植野と親しくなってもらい、真柴ー自分、将也ー植野のダブルデート状態に持ち込むことを考えた。
そう考えると、「将也ー植野」側のカップリングの邪魔になる硝子はこの企画から排除するのが妥当。
こういったロジックで植野とも利害が一致したので、硝子を排除してさっさと映画撮影を始めてしまうことで二人の間で合意成立。
もしかすると真柴にも事前に根回しがあったかもしれない(硝子の参加について余計なことを発言させないために)。
この推測は、将也が硝子の名前をだしたときの反応と、そのあと真柴だけが意見を変えるときの言動と整合性があるように思われます。
それにしても、真柴が意見を変えた瞬間にそっちの意見に乗り換える川井の変わり身の早さは笑えます。
上記のような策略があったとしたら、この瞬間に植野は裏切られているわけですよね(笑)。
さて、上記のような推理の妥当性を補強するのが、33話最後のコマです。

第5巻22ページ、第33話。
アメコミ風に表現されているもののこれは映画とは関係なく、恐らく作者的にはこのコマで「川井と植野の策略は失敗した」ということを示して、同じ話のなかでさっさと「伏線回収」した、という整理なのではないかと思います。
ラベル:第33話