第49話の「真柴のなぞの種明かし」を受けて、過去の回の真柴の言動をあらためて考察し直すエントリの続きです。
4)登校日の会話
第49話の内容から、登校日の真柴の会話で真柴が何を考えていたのかを推理するのは意外に難しいです。
このとき将也は、バカッター事件で興味を持って話しかけた、と話した真柴に対して、
将也「そんなことで話しかける真柴君も変わってる はは」
と返しましたが、真柴はこれに強く反応しました。
真柴「そう 僕 変わってるんだ まあ 変わってなきゃ いじめられないよね」

第5巻93ページ、第37話。
このとき、真柴は内心「自分は将也と比べると変わっていない、普通だ」と考えていた(信じたかった)ことが分かっています。
ですからこれはかまかけだ、ということになります。
真柴は、将也からの「いや、自分のほうが変わってる」とか「そんなことないよ」といった返事を期待してこの発言をしたことになります。
また、この真柴発言には2つの内容があります。
1つは、「僕は変わってるんだ」、もう1つは「変わってなきゃいじめられない=いじめられるのは変わってるからだ」です。
このうち、真柴は1つめは否定してほしくて、もう1つのほうは肯定してほしかったと言えるでしょう。
そして、この真柴の発言に対する将也の反応は、かなり真柴の期待通りだったと言えます。
将也「あは そんなふうに見えないのにホント! ごめん……!」
しっかり1つめを否定してくれました。
だから、真柴は、
真柴「すごいっ わかるんだっ」

第5巻94ページ、第37話。
と喜んだわけです。
そして畳み掛けるように、もう1つの論点を掘り下げようとします。
真柴「じゃあ逆に どんなふうな奴が いじめられやすいのか わかるんだねっ!」
これについて、真柴が期待していたのは恐らく「変わっている奴がいじめられやすい」、もう少し一般化していうと、「○○な(変わってる)奴がいじめられる」という、まあ言ってみれば「いじめられる理由があるからいじめられるんだ」的な答えだったのではないかと思います。
真柴は、その「将也が考える、いじめられる理由になるような、変わっている特徴」を探り出すべく、硝子の例を持ち出してきます。
真柴「西宮さんのほうは なんで いじめらちゃったんだろーね 石田君から見て そんな要素ある?」

第5巻95ページ、第37話。
ここで真柴が硝子の話を持ち出したのは、真柴としては特に他意はなかったのだと考えます。
単に、将也に話題をふれる、具体的ないじめの被害者として、真柴が知っていたのが硝子の話だけだった、ということなのでしょう。(でもそれが、将也にとってはものすごい疑心暗鬼を生むことになってしまったわけですが)
ちなみに、ここで、「西宮さんの『ほう』」といっている「ほう」の、もう一方として考えているのは真柴自身のことなのでしょう。
「(僕は変わってるからと言われていじめられたけど)西宮さんのほうはなぜだったの?」ということです。
ですから、ここで真柴が将也に期待していたのは、硝子が「○○という点で変わっていたから、それでいじめられたんだ」という答えだったはずです。
そしてそれに対しても、将也は結果的に「期待に応える」返事をしました。
将也「ほら… 耳が聞こえないから… それで…… からかわれて……」
将也のこの答えは、「硝子は変わったところ(=耳が聴こえない)があったからいじめられたんだ」と真柴には受け止められたでしょう。
こんな風に、真柴の期待するとおりの答えがすべて返ってきたので、真柴は満足して、それ以降の会話はどちらかというと単なる世間話になっているという印象です。
「耳なしホーイチ」の話も、その後の「障害者をいじめた奴はぶっとばしてー」も、真柴にとっては「自分の聞きたいことが聞けたあとのクロージングの雑談」に過ぎなかったと思います。(「ぶっとばしてー」のところなんかは、将也のことを見てすらいません)

第5巻97ページ、第37話。
ところが、真柴にとっては他愛もない雑談のつもりだったこの部分が、将也にとっては過去のトラウマをえぐり返し、疑心暗鬼にとらわれて川井に聞いてはならないことを聞いてしまう、最悪の展開に繋がっていったのは皮肉です。
長くなったので、残りは次のエントリで。