2014年12月15日

第52話にみる、硝子の「防衛機制」とは?(2)

※このエントリは、第52話連載時に書いたものです。そのため、その後の連載の内容と齟齬があったり考察に変化がある場合があることをご了承ください。

第52話の「硝子視点」では、硝子が、ものごと、特に対人関係を極度にポジティブに受け止め、認知し、また記憶していることが、橋メンバーの回想シーンなどから透けて見えてきます。

では、なぜ硝子は、このような行動原理を身に付けるにいたったのでしょうか?

その理由の1つとして、以前硝子が手紙で植野に告白した「障害ゆえの状況把握の困難」ということがあるのではないかと思います。

私は今まで 自分の聞き取っていることに自信が持てず
自分が感じとっていることが 真実の上になりたっていることなのか判断できませんでした
私は 本当のことをみんなより遅れて知ることになってしまいがちで
誰かに何か 聞くにしても
笑顔を作り あたりさわりのない返事をすることによって 相手の気分を損ねないように取り繕ってきました



第6巻34ページ、第44話。

人間関係の非常に大きな部分はコミュニケーションによって成り立っており、そのコミュニケーションの大部分は音声言語によって成り立っています。
端的にいえば「目の前の人間が自分にどういう態度をとっているのか」を理解する、ということは、ほとんどの場合、「目の前の人間が自分になにをしゃべっているのか」と限りなくイコールに近いです。

ですから、相手の言っていることがほとんど分からない、ということは、「相手が自分に対してどういう態度をとっているのか、細かいところがほとんど分からない」という結果につながります
相手に対して何かの感情をもったとしても、それはまさに手紙の中にあるとおり、「自分が感じとっていることが 真実の上になりたっていることなのか」どうかがはっきり分からなくなってしまうわけです。

このような状況下で、もっとも無難な適応戦略は、これも手紙のなかにあるとおり、「よくわからないときは、とりあえず笑顔をつくって当たり障りのない対応をする」ということでしょう。
特に硝子の場合、障害がかなり重いため、ほとんど常に「笑顔をつくって当たり障りのない対応をする」ことを繰り返さざるをえなくなっていっただろうと思います

それは植野に批判されたとおり、「いつも作り笑いで本心を見せない」ように見えるかもしれませんが、硝子としてはそうするしかなかったわけです。

そして、このように「まわりの人がなにを言っているかよく分からないことがほとんどだから、いつも笑顔をつくって当たり障りのない対応をする」ということを繰り返していたことが、対人関係を極度にポジティブに受け止める硝子の認知スタイル、価値観を醸製していった1つの大きな要素だと思われます。

余談ですが、この手紙自体も、硝子の「対人関係に対する楽観性」が現れているように思います。
この手紙のなかで、硝子は多少飾っている部分もあるものの、かなりホンネを語っています。
その後の植野回などを振り返ると、植野はこの手紙のきっかけになった観覧車ビンタ事件ではどちらかというとカマをかけた側面があり、決して100%のホンネでぶつかったわけではなかったのですが、硝子はその植野の態度を誠実だと受け止め(ビンタされたのに!)、これまで語らなかったホンネで返しているわけです。
この手紙自体も、硝子が性善説にたって人を素直に信じていることの現れだといえるでしょう。

そして、その手紙は、将也転落で逆上した植野によってひどい使われ方をしたわけですが、それに対しても硝子は怒っている様子はなく、自分の責任だと受け止めているようで、そこまで含めて、硝子の「行動原理」が透けて見えているようにも思います。


ラベル:第52話 第44話
posted by sora at 07:14| Comment(2) | TrackBack(0) | 第6巻 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
植野と西宮の間で、暴力というこの上なく伝わりやすいコミュニケーション手段が要所要所で(一方的に)用いられていることは、なんとも皮肉ですね。
必ずしも相手と関わりたくないのに関わらざるを得ない、また、気持ちを伝えたいのに手っ取り早い手段が見当たらないという矛盾と葛藤が、両者のやりとりにおいて描かれているように思います。
Posted by ジョー at 2014年12月15日 10:52
ジョーさん、

コメントありがとうございます。

植野には、場面ごとに、硝子に伝えたいことがいろいろあるんですよね。

でも、植野は硝子にそれをうまく伝える方法が分からないように描かれていて、だからこそ煮詰まったところで必ず植野から硝子への暴力が出てしまう、そういう風に描かれていると思います。
Posted by sora at 2014年12月16日 00:37
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