第53話の前半の「夢」のシーンのなかで、3ページめ以降の「高校生将也」が登場するシーンを読み解くにあたっては、それぞれのキャラクターの「服装」がヒントになると思われます。
4ページでの2コマめ、橋で泣いている硝子を将也が夢で見る場面ですが、硝子の服が「いま本当に硝子が着ている服(将也は見たことがない)」であることから、超常的な力によって将也が橋の上にいる硝子を「遠視(透視)」したと考えざるを得ない、ということについては既に別のエントリで触れました。

問題は、このときの将也の服装と背景です。
将也の服装は、「制服の冬服」です。
転落したときに着ていた私服でも、5月以降夏休み前までずっと着ていた夏服でもありません。
ですのでこの将也の服装は「夢の中完結の服装」だと考えるべきで、そうすると1ページ前の3ページの3コマめに映っている「冬服の将也」がこのコマで戻ってきている、と考えるのが適切だと思われます。

第53話、3ページ。
次に背景ですが、橋を「透視」しているコマの、将也よりも右側は真っ白で、将也より左は夜の闇の黒に塗りつぶされています。
つまり、将也を境にして、左と右で別の世界が描かれている、ということだと考えられます。
「橋で泣いている硝子」は「リアル(目覚めたあとの)世界」の映像です。
それに対して、「冬服の将也」は「将也の見ている夢」の映像です。
つまり、このコマでは、「夢の中にいる冬服姿の将也が、夢の中にいるままで、リアル世界の硝子の姿を透視した」ということを表現しているのだ、と言えるのではないでしょうか。
そして、これは繰り返しになりますが、「夢」のレイヤーにいる高校生の(冬服の)将也は「夢を見た」といって小学生のころのありえない生活を見ています。「夢」のなかで「夢」を見ているわけですから、この小学生将也が登場しているレイヤーが「夢中夢」となります。
さらにその小学生将也は「幸せな気分で眠りにつく」といって寝てしまいますが、これは「夢中夢中夢」というさらに多層化された「夢のレイヤー」であり、全体として複雑な「多重夢構造」を形成しています。
以下、このレイヤーを改めて整理してみます。
1)リアル世界のレイヤー:橋で泣く硝子がいる。
2)レベル1の夢レイヤー:病室で眠るリアル将也が見る夢の世界。制服冬服姿の将也がいる。
3)レベル2の夢レイヤー:レベル1の夢の中の将也が見る夢(夢中夢)の世界。小学生の頃の将也らがいる。
4)レベル3の夢レイヤー:レベル2の夢の中の将也が「幸せな気分で眠りにつく」といって眠ったあとのまどろみ(夢中夢中夢)の世界。どうやらこのレベルに長くいるとそのまま死んでしまうらしい。「黄泉の世界」。
第53話は、上記の「レベル2の夢レイヤー」の映像(小学生将也のありえない夢)から始まります。
ただし、ここで「夢を見た」というモノローグを語っているのは、「レベル1の夢レイヤー」にいる将也です。
そして、3ページの1コマめで眠ってしまったレベル2の将也は、「レベル3の夢レイヤー」=「黄泉の世界」に沈んで死にかけますが、誰かに手を引っ張られてハッとして(ここで引っ張ったのは誰か、という謎は別エントリで考察していますが、島田や硝子ともつながりがある形での「鯉」ではないかと私は読んでいます)、2段階アップで「レベル1」まで戻ってきて一命をとりとめます。
そして、「レベル1」の将也が「本当の俺たちは ドコへ行くんだろう」「本当のみんなは」などと答えのでない問いで悩んでいるうちにまた意識が遠のいて、ふたたび「レベル3」まで落ちてしまいそうになり「死ぬんだろうか」と弱音を吐きます。
でもここで「いや 死んじゃダメだ!」と最後の気力を振り絞って「レベル1」に戻ってきたとき(4ページ)、その勢いで?さらに「レベル1」を超えて「リアル世界」との境界まで覚醒し、(超常的な力が働いて)「リアル世界」の橋で泣いている硝子を「透視」します。
そのあと、その硝子の映像は途切れますが、その硝子に声を叫ぼうとした将也は、ようやく目覚め、「リアル世界」に戻ってきます。
第53話の前半、将也が目覚めるまでの夢のシーンでは、将也はこんな風に多層化された夢の世界をさまよい、ところどころで死の淵にたちながらもなんとか生還して目覚めた、という構成になっているのだと思われます。
ラベル:第53話