さて、第53話の3ページだけを徹底して読み解く連続エントリの2つめ、ここでは2コマ目を読み解きます。
2)「その時 誰かに手を引っ張られ ハッとした」のモノローグと、水中のような背景、左手を誰かにつかまれる描写。

第53話、3ページ。
2a)このシーンはいつのシーンで、
2b)このシーンの場所はどこで、
2c)手を引っ張っているのは誰なのか?
この3つはすべて連動しているので、まとめて考えないわけにはいきません。
そしてその前に、
2d)このコマが意味しているものは何か?
ということも考える必要があります。
まず2d)からいきますが、このシーンは、1つまえの1)のコマで「幸せな気分で眠りにつく」の「眠りにつく」の意味が「息を引き取る」の意味であって、そのまま「眠って」しまったら「死んでしまう」という状況を示しているのだと思います。
だから、誰かに手を引っ張られハッとした、というのは、そのまま放っておくと死んでしまったところを、誰かに手を引っ張られたことで「目が覚めた」=「生還した」ということを意味しているのに、間違いありません。
ですから、ここでの「誰かが手を引っ張った」という描写は、「死にかけていた将也を誰かが『手を引っ張る』ことで生還させた」という「意味」にならなければならない、ということになります。
そう考えたとき、この「手を引っ張る」シーンの答え、2a)~2c)の組み合わせは、以下の3つくらいが思い当たることになります。
ア)このシーンは将也のマンション転落時の川で、手を引っ張ったのは、そのとき将也を救出した島田。
イ)このシーンは第51話の「夢枕」で将也が登場した4月15日の「橋」。手を引っ張った、行かないでと懇願した硝子。
ウ)このシーンは第52話で硝子が駆けつけ、涙を落とした「橋」の下の川の中。手を引っ張ったのは、硝子の涙を見届けた「鯉」。
このうち、イ)は相当苦しいです。
まず、将也の腕が「裸」で、イ)のシーンならあるはずの冬服の袖が映っていませんし、このシーンなら「視点」は水中ではなく橋の上のはずです。
また、このシーンで硝子が引っ張っているのは「袖」であり、さらに「両手でつかんでいる」ので、このコマに描かれているようなイメージで腕をつかまれているのとはかなり状況が異なります。

第6巻164ページ、第51話。
ということで、イ)は(いったん)脱落です。
残るア)とウ)ですが、素直に考えると、ア)が出てくるでしょう。
このシーン、「視点」が水中ですし、花火大会のときの将也は半そでなので腕に「袖」が見えないのも合っていますし、「水中から引っ張られることで命拾いする」というシチュエーションとして実際にあったのはア)なわけですから、一見、ア)が正解なように見えます。
でも、ア)はア)で苦しいのです。
その最大の問題点は、時系列が壊れてしまうところにあります。
将也が島田から助けられたのは、当然ですが西宮宅のマンションから転落した直後です。
一方、将也がこの「手を引っ張られてハッとした」という「夢」を見ているのは、将也が昏睡から目覚める直前です。
そして、少なくとも最低限の時系列として、「手を引っ張られた」のは、その直前のコマの「幸せな気分で眠りにつく」の「後」であることは絶対に確実ですが、この「幸せな気分で眠りにつく」の「夢」は、硝子の第51話の「夢」との間にシンクロニティが生じていますから、やはり9月2日の夜でなければおかしいわけで、この「手を引っ張られた」夢を見たのは、やはり9月2日の深夜だとしか考えられません。
そうなると、仮にア)だとすると、転落直後に誰か(実際には島田)に水中から引き上げられたイメージが記憶に残っていて、今回9月2日夜に、また死にそうになったところでたまたま(何もないところで)また同じイメージ(水中から引き上げられる)がわいて気がついて助かった、ということになります。
どうも、この場面で島田を思い出す必然性がまったくないのです。
なぜなら、この(ハッと気がついた)瞬間、将也を助けようと必死な気持ちでいたのは硝子であって、島田は関係ないからです。
どうせなら、夢枕で会った硝子に袖を引っ張られて気がつく、という、イ)の展開にもっていたほうが演出的にマシな気がします。
ここで、がぜん有力になるのがウ)の仮説です。
もともと、第52話のラストの演出も、硝子の涙が橋の下の水面に落ち、その川のなかにいた鯉にその涙が「受け止められた」次の瞬間、将也が目覚めた、という流れでした。

第6巻181ページ、第52話。
ですから、2)のコマで起こったことは、1)のコマのあと、「死の眠り」についてしまいそうになった将也の夢に、川で「硝子の祈り」を受け止めた「鯉」が入り込んで、将也の腕をつかんで死の縁から引き上げて生還させた、という風に解釈する3)の読み解きが可能だと思われるのです。
考えてみると、そもそもマンションから転落したときも、将也の回りには鯉が泳いでいて、その「鯉」が島田らをして将也を助けさせたと考えることもできるので、そういう意味ではア)とウ)は意外と近いところにあるのかもしれません。
さらに、ここで将也の手が引っ張られたのは、硝子の「橋での想い」が通じたからなので、そういう意味では「気持ちとしては」イ)でもある、ということになります。
まあ、何でも鯉のせいにするというのもアレですが、ここは、
・「引っ張る」原動力は、イ)の「硝子の願い」であり、
・「引っ張る」という現象そのものは、将也の意識の深いところに残されたア)の「島田による転落時の引き上げ」の記憶が夢に現れたもので、
・それらをまとめあげて「奇跡」を起こしたのは、ウ)の「鯉」だった、
という風に理解したいと、私は思っています。
> まず、将也の腕が「裸」で、イ)のシーンならあるはず の冬服の袖が映っていませんし、
良く見ると引っ張られる将也の腕にうっすらと袖が描かれています。しかも誰かの手で袖の上をつかまれているような感じで。引っ張られている将也の手も硝子の夢と同じ左手でです。
硝子の袖をつかむ夢の影響(シンクロニティ)により将也の夢の中で袖がイメージされたことを表現しているのではないでしょうか。
こちらの試し読みのページで見ると袖が描かれていることがはっきりわかります。
http://akm.md-dc.jp/book/carrier/00000006/binb1.4/000000b9/core/binbReader.jsp?url=&shareUrl=http%3A%2F%2Fmd-fp.jp%2Fservice%2Fnc%2F0000000d%2F000000%3Fisbn%3D9784063952681%26lastUrl%3Dhttp%253A%252F%252Fkc.kodansha.co.jp%252Ftrial_lastpage%253Fisbn%253D9784063952681&cid=0002op6n00000000&dlEngine=0000000x&title=%E3%80%8E%E8%81%B2%E3%81%AE%E5%BD%A2%E3%80%8F%E8%A9%A6%E3%81%97%E8%AA%AD%E3%81%BF%7C%E8%AC%9B%E8%AB%87%E7%A4%BE%E3%82%B3%E3%83%9F%E3%83%83%E3%82%AF%E3%83%97%E3%83%A9%E3%82%B9&dataName=%E8%81%B2%E3%81%AE%E5%BD%A2&productName=%E3%82%B5%E3%83%B3%E3%83%97%E3%83%AB¶m=1
コメントありがとうございます。
なるほど、将也の腕のところにぼんやり映っているのは、誰かの手だと思っていたんですが、これはたしかに「袖」ですね。
だとすると、硝子が夢の中で引っ張った場面とシンクロしていると考えるのが確かに自然ですね。
ありがとうございます。