2014年11月27日

聲の形における「因果応報」を考える(6)

ここまでで、「因果応報」という主題から、第3巻までの物語を読み解いてきましたが、続いて第4巻です。

第4巻では、将也・硝子・植野、それぞれにとっての「因果応報」がどのようなものであるのかが、より具体的に、詳しく描かれていきます

そういう(因果応報という)観点から、第4巻前半の遊園地回を読み解くならば、ここでは、

・将也にとってのインガオーホーのトラウマの中核部分に「島田」がいるということ

・植野は何らかの理由で、将也同様「過去」にとらわれており、同じくその「過去」には「島田」が関わっているらしい、ということ

・硝子は自己肯定感が低く、自分のこと嫌いだと思っている、ということ


Koe_no_katachi_04_084.jpg
第4巻81ページ、第27話。

この3つの「それぞれの因果応報の実態についてのヒント」が示されている、と言っていいと思います。

そしてその後の葬式回で、硝子にとっての「因果応報」とはどんなものであるのかが、「悪役」としての西宮父とその家族によってついに提示されることになります。
それは、「なんらかの前世での罪」によって、現世で「障害を持ち、周囲を不幸にする」という呪いが「罰」として与えられる、という、硝子自身にはどうにもならない、理不尽な「因果応報のループ」でした。


第4巻169ページ、第32話。

この、硝子に設定された「因果応報」は、倫理的にいえばメチャクチャで、なんの合理性もないもの(でも物語上は設定されなければならないものでもあった)ですので、どうしても「悪役」に言わせる必要があったのだろうと思います。

ともあれ、理不尽にも設定されたこの硝子の「因果応報のループ」も、悲しいかな物語の中では生きています。
だとすれば、硝子が第2巻で将也と再会し、さらに第3巻からどんどん仲間が増えていく展開は、同時に、いつかその全員を不幸にするという、硝子の因果応報の罰、呪いが発動することを予感させるものでもあったことになります。

このように見ていくと、第4巻までで、いつか爆発するであろう「因果応報」が、将也と硝子、それぞれに埋め込まれた状態になっていることに気づきます。

一見、第3巻からかつての仲間が戻ってきて和解が始まり、硝子は将也に「うきぃ」と告白し、第4巻では結絃はガムシロ回で将也に救われて、いろいろありながらも「因果応報」をうやむやにしながらハッピーエンドの方向に向かっているように見えますが、実はまったくそんなことはなく、平和そうな表層の下で、因果応報の時限爆弾は、着々と準備を整え、炸裂するタイミングを待っていたことになります。
ラベル:第27話 第32話
posted by sora at 07:12| Comment(2) | TrackBack(0) | 第4巻 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
>硝子は自己肯定感が低く、自分のこと嫌いだと思っている、ということ

差別というものは、時代や場所やその差別の「種類」を問わないという点において、まさに「因果応報の理」を普遍的に帯びていますね。

「ヤクザの半分以上は在日と部落」みたいなデマはよくネット上で目にします。
これはほとんどムチャクチャな言いがかりなのですが、「被差別者の自己肯定感の低さ」の結果、彼ら・彼女らがその社会のアウトサイダーに追いやられざるをえないという社会構造を皮肉にも言い当てている、という意味では「事実」といっていいかもしれません。
ある意味「因果応報の理」の実例です。

このエントリの画像にある、硝子の父方祖母のようなムチャクチャな理屈(この後、ママ宮さんが「はぁっ!?」っと当惑するコマに続きます)は、けっこう日本ではいろんな種類の差別に「応用」されて実際に使われていることを、知らない人が多いんですよね。
なぜか差別の正当化に仏教的世界観が引き合いに出されているという…「知らぬが仏」とはよく言ったものです。

ところで…このエントリで同じ画像が2つ使われ、しかもキャプションでは登場話の表記が異なる(32話が正しい)のは、単純なミスでしょうか? つい深読みしてしまいます(笑)。
Posted by ブラウニング at 2014年11月27日 09:07
ブラウニングさん、

コメントありがとうございます。

貧困と差別がループする、というのはよくあることで、いまちょうどニュースで話題になっている白人警察官の件でも、デモが過激化すると略奪になってしまう、というのはそういう側面をもっていると思います。

また、画像については貼り間違いだったので修正しました。ご指摘ありがとうございます。
Posted by sora at 2014年11月27日 23:05
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