そして、それでも教えろと食い下がる将也に対して、顔をさらに真っ赤にして何度も逡巡たあと、ようやく「理容師」という手話が出てきました。
(なお、この硝子の手話を、将也は「美容師」と誤読してしまいますが、その点については別エントリで書いたので、ここは硝子視点で「理容師」のほうで考えていきます。)

第59話、8ページ。
でも、考えてみると不思議なことですよね。
「理容師になりたい」という夢を語ることが、そこまで恥ずかしいことだとは普通は考えられません。
では、なぜ硝子は、理容師になりたいという夢を語ることを、そこまで恥ずかしがったのでしょうか?
まずは、これまでの経緯をふまえつつ、できるだけ前提を置かない形で素直に考えると、
1)硝子が目指している目標が、将也の母親の職業と同じだから。
というのが、硝子が照れている理由の一番の根っこにある、と考えられると思います。
第59話のやりとりで注目すべきなのは、「理容師」という単語を示すこと、それ自体を硝子がものすごく恥ずかしがったということです。
つまり、「理容師」という単語を出すだけで将也に伝わってしまうこと、そのことを硝子はまず恥ずかしがっていたと考えるべきだろうということです。
そうでなければ、理容師と伝えるときは平気で、理由を聞かれたら恥ずかしがる、といったように「恥ずかしがるタイミング」が違うはずです。
そう考えると、やはり石田母の職業との関係をまず考えるのがよさそうです。
硝子の夢が、自分の母親と同じ。
それを知った将也は、なぜ硝子が自分の母親と同じ仕事を目指しているのか、それは偶然なのかそうでないのかということに興味をもつだろうと硝子は考えるでしょう。
それを聞かれたら、硝子はさらに、小学校のときのヘアメイクイシダでの思い出から、理容師の憧れが芽生えて理容師を目指すようになったことを話すほかなくなります。

第55話、15ページ。
つまり、将也に対して自分の進路をはなすことは、そのまま「あなたのお母さんに憧れて理容師を目指している」ということを話すことになる、そのことを硝子はまず恥ずかしく思っていたんだ、ということが考えられるわけですね。
…ただ、それだけなのでしょうか?
硝子は、単に将也の母親に憧れて理容師を目指しているという話をするだけで、そこまで恥ずかしがるでしょうか?
たぶんそうではなく、
2)硝子の照れには「それ以上」のものが含まれていた。
と考えるほうがいいでしょう。
次のエントリで、その点について考えていきたいと思います。