2014年12月25日

将也は中学時代も机に落書きされていたのか?

※このエントリは、連載期間中期頃に書いたものです。そのため、その後の連載の内容と齟齬があったり考察に変化がある場合があることをご了承ください。

これも私のなかで永らく謎だったのですが、いちおう自分なりの答えを出しました。

将也は、小学校での学級裁判後、いじめられる側に転落したわけですが、将也が中学時代はどんな扱いを受けていたかがいまいちはっきりしないのです。

端的にいうと、このコマの意味がよくわからなかったんですね。


第1巻183ページ、第5話

このコマだけ見ると、中学生の将也の机に、小学校時代と全く同じ落書きが書かれ、中学生の将也がそれを消しています。

これをそのまま受けとると、中学時代の将也も小学時代と同様に机に落書きされ、その首謀者は恐らく島田だった、ということになります。

でもこれはさすがに不自然です。
まず、中学になっても机に落書きを続けるというのはいくらなんでも執念深すぎて、もし島田がそれをやっていたとするなら相当強い「恨みの理由」が必要です。
また、落書きの内容が小学校時代と同じレベルに見えます。小学校時代同様の「寄せ書き」だとするなら「共犯」がたくさん必要ですし、内容的には中学生にしては幼稚すぎるように思います。
そして、そこまでひどいいじめを受け続けていたとするなら、さすがに将也は限定版CDを「買ったよ」と話しかけるだろうか、という疑問もあります。
また、「机の落書き」について、「(小学校)卒業まで毎日続いた」とありますが、その後中学校に入っても続いていたのだとしたら、この表現になるでしょうか?


第1巻168ページ、第4話。

こういう疑問を考えるには、まず「原典にあたる」のが基本、ということで、第1巻にある、「将也いじめ」をすべてピックアップしてみます。

まず、小学校時代。

第1巻126ページ、第3話:学級裁判の放課後、島田に池に落とされる(筆談ノート発見)
第1巻137~140ページ、第3話:島田・広瀬からプロレスいじめ
第1巻144ページ、第3話:放課後、誰か(恐らく島田・広瀬)に暴力をふられ倒れている将也
第1巻148ページ、第4話:体育の時間に硝子とともに仲間はずれ
第1巻149ページ、第4話:クラスで広瀬から「タバコくせ、グレてんじゃね?」
第1巻150ページ、第4話:上履きが盗まれる(ページ内で2回、恐らく犯人は島田)
第1巻150ページ、第4話:給食にいたずらされる
第1巻150ページ、第4話:自席のいすが隠される
第1巻150ページ、第4話:後ろから「わ!」と脅かされる
第1巻150ページ、第4話:ベランダから頭の上にごみが落とされる
第1巻155ページ、第4話:硝子が机の落書き消し(実際には将也の机)
第1巻156ページ、第4話:島田・広瀬に上履きを捨てられる
第1巻157ページ、第4話:島田・広瀬にボコボコにされる
第1巻166ページ、第4話:机に落書きされる
第1巻168ページ、第4話:机の落書きは卒業まで毎日続いた


続いて中学校時代です。

第1巻171ページ、第5話:島田が入学式で「将也に近づくな」と言う
第1巻180ページ、第5話:限定盤CDの件で島田・広瀬から「うわ俺もうファンやめる」「俺も」と言われる
第1巻183ページ、第5話:机に落書きされる


最後のものが問題の「机の落書き」ですが、やはり明らかに異質です。
この描写を除くと、将也は中学時代は「いじめを継続的に受けていた」のではなく「疎外」されて孤立していた、という描写になります
こちらのほうが自然であるように思われます。

では、この「中学生将也の机の落書き消し」のコマはなんなんでしょうか。

あらためてこのコマの前後をみると、178ページの後半から183ページの前半までは枠外が黒くなっていて、この技法はこのまんがでは「回想」を示しています。
では、いつの「回想」か。
183ページの、回想が終わった直後のコマからは、硝子と会える場所が分かって自殺のために身辺整理する場面が続きます。
つまり、この「回想」は、硝子の居場所がわかった、将也が高校3年の4月初頭のもの、ということになります。

そして、183ページの机拭きコマにかぶる将也のモノローグ。

どーせ死ぬんだ
死ぬなら さっさとやり残したことを片づけよう


将也が自殺の前に片付けたかった「やり残したこと」とは?
言うまでもなく、硝子に対して後悔のことばを伝えることです。

そして、その「後悔」の象徴ともいえるのが、「机の落書き」でしょう
島田・広瀬からからかわれていただけだと思っていたら、実際にはクラス全員からハブられていた。
そんな絶望的な孤立を端的に示す「机の落書き」を、毎朝黙って消して、クラスのなかで唯一の味方だった硝子に対して、自分は愚かな敵意を向けて転校させてしまった…。

ですから将也にとって、「机の落書きを消す」というのは、硝子が転校してから小学校卒業まで毎日毎日繰り返された、「自分がクラス全員から疎外され孤独だという現実の再確認」と「たった一人の味方だった硝子を理解できなかった後悔の再確認」という「儀式」だったのだと思います。

そう考えれば、この「中学での机の落書き」のシーンについて1つの解釈が成り立ちます。

島田の言動により中学で孤立した将也。
孤独を感じつつも、限定版CDを手に入れたことで、「一度失ったもの(友達)もまた手に入るかもしれない」と希望を持つ。
そのときたまたま名古屋の書店で手話の本を買う。
限定版CDで友情はもどらず、ぽっきり折れる将也の心。将来に絶望し死を意識する。

ここで出てくるのが「机の落書き」のシーンです。

つまりこのシーンは、実際に机に落書きがされたわけではなく、将也にとって、中学になっても友情が失われた小学校時代から時計は止まったままで、今もさげすまれ疎外されている、ということを再確認したという「将也の心の中の風景」である可能性が想定されるわけです。

そしてこの日から、将也は手話を勉強し始めたのだと思います。
「やりのこしたこと」=硝子にことばを伝えることと、補聴器代をバイトで弁償することだけを、残りの人生の目的にして。
バイトの方で真柴から「バイトの鬼」と呼ばれるくらいなので、手話の方も「手話の鬼」になるくらい猛烈に勉強したのだと思います。

さて、話がずれましたが、私の個人的な1つの仮説として、中学時代の将也は孤立してハブられていた(話しかけても相手にされなかった)のは事実でも、「机の落書き」みたいな具体的ないじめは受けておらず、183ページの描写は将也の心証風景であって実際に起こったことではないのではないか、と考えています。
タグ:第05話 第04話
posted by sora at 07:26| Comment(6) | TrackBack(0) | その他・一般 | 更新情報をチェックする