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2014年12月16日

第51話、硝子は「現場」を見ている?

※このエントリは、第52話連載時に書いたものです。そのため、その後の連載の内容と齟齬があったり考察に変化がある場合があることをご了承ください。

第51話の冒頭で、将也転落後、硝子がどのような行動をとったかを、改めて整理してみたいと思います。

まず1ページから、硝子は将也が川に転落したのを目撃したあと、ベランダの柵をなんとか登ってベランダに戻り、ベランダからリビングに戻りますが、ここで視界が白くなり、視点が床のすぐそばまで下がって斜めになっていることから、ここでめまいを起こし、リビングか廊下の床に倒れてしまったことが分かります。


第6巻149ページ、第51話。

そして2ページに移り、倒れた後、しばらく気を失っていたことも分かります。
気がつくと、かすかにパトカーの音が聞こえています。
ここで起き上がりますが、起き上がったところの床を涙がぬらしている描写があります。


第6巻150ページ、第51話。

そして、そのまま部屋のドアを開け、エレベーターで1階まで降り、マンションのドアを出たところで警官につかまります。

警官の話が聞き取れずに焦る硝子に、助け舟を出してくれた声に気づくと、そこに島田と広瀬がいます。
島田はずぶ濡れで、将也を救出してくれたのが島田だったことはすぐに分かる状態でしたが、その島田からは「石田に言うなよ」と釘をさされます。

そして、私が今回注目したいのは、回想シーン最後のこのコマです。


第6巻153ページ、第51話。

このコマを見ると、硝子は、裸足のまま将也が転落した川の川岸まで近づいていることが分かります。
この前の、警官に声をかけられて戸惑っている場面では、「川」とはまったく関係ない場所に立っていることがわかりますから、硝子はこの後、わざわざ自分の足で「現場」まで歩いていって、そこを見ていることが分かります。

将也はもう救出された後でしょうし、川なので水も流れていますから、将也が流した血も見えなくなっているでしょうから、そこには将也の「痕跡」はおそらく何もなかったのではないかと思います。

でも、警官に問い詰められ、島田に釘をさされた後、そのまま部屋に戻ったのではなく、ふらふらになりながらも「現場」まで歩き、そこに将也がいないこと(=すでに救急車で運ばれていったこと)と、島田の「石田に言うなよ」のせりふが暗に示している「将也は一命をとりとめた」ということを確認した、ということは、物語上、大きな意味があると思います。

将也が自分の身代わりになって転落したことは、硝子の悪意(=意図して行なったこと)ではありませんし、不幸な偶然が重なった結果ではありますが、やはり突き詰めると硝子にとって「自らの過ち」であると受け止めざるを得ないのは事実でしょう。
この「現場に行った」という描写があることによって、錯乱状態の硝子が、それでもその「自らの過ち」をしっかり目に焼きつけ、受け止めていたこと、そのうえで「映画の再開」にむけて動いていた、ということが描写されている、と思います。
それにより、映画再開のための奔走する行為が、単なる逃避ではなく、硝子なりに自らの罪をあがなうための「覚悟」をもった行動だった、と読み取ることができるようになっているように思います。
タグ:第51話
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石田母と西宮母、謝罪に対する対照的な対応とは?

※このエントリは、第52話連載時に書いたものです。そのため、その後の連載の内容と齟齬があったり考察に変化がある場合があることをご了承ください。

石田母と西宮母は、物語のなかでも対照的なキャラクターですが、以前の大今先生のCocohanaインタビューで、ずっと引っ掛かっていたことがありました。

「石田母については『優しさの中の厳しさ』を、西宮母については『厳しさの中の優しさ』を、今後描いていきたい」

こちらについて、西宮母については、第4巻の過去の経緯とか、祖母が死んだあとの結絃に対する微妙な態度の変化とか、誕生日の将也への態度とかが「優しさ」かな、石田母については将也の自殺意図を知った際にお金を燃やしたのが「厳しさ」かな、などと漠然としたイメージくらいしか持てていなかったのですが、改めて最初から読み直してみて、ある1点について、両者が非常に対照的に、それぞれ「優しさの中の厳しさ」「厳しさの中の優しさ」を示しているシーンがあることに気づきました。

それは、

相手の子どもの、自分の子どもに対する行為への謝罪に対する、(まだその相手の子どものことが受け入れられていない段階での)対応

です。

西宮母については、第2巻、第7話で、5年ぶりに硝子と再会した将也が小学校時代のいじめを謝罪した場面がそれにあたります。
このときの西宮母の対応は、「ビンタ」でした


第2巻40ページ、第7話。

このビンタ、最初に読んだときは「一方的な『厳しさ』」であるような印象をもったのですが、同じような状況での石田母の対応と見比べたとき、初めて、必ずしも単なる厳しさでもない、ということに気づきました。

その、上記に「対応」する、石田母の場面は、硝子の自殺の身代わりに転落した将也が入院し、病院で硝子と出会った場面です。
このとき、石田母は筆談ノートで謝罪しようとする硝子を遮って、「まだ心の整理ができていないから」と言って去ってしまいます


第6巻119ページ、第49話。

この二人の対応、いずれも、「相手の子どものせいで自分の子どもがひどい目にあった、でも相手の子どもは反省しており、謝罪の意思を示している」という状況に対する反応として、実に対照的です

西宮母の対応は、ビンタという一見きわめて「拒絶的」なものですが、別の見方をすると、将也の謝罪のことばをちゃんと聞き、無視せずにちゃんと反応を返した、ということもできると思います。
将也の視点から見ると、「ちゃんと謝罪のことばが伝わって、ちゃんと罰を受けた」ということになり、問題が着実に一歩前進しています。

ですからこの反応は「厳しさ」なのか「優しさ」なのかといえば実は「優しさ」なのであり、まさに「厳しさの中の優しさ」が描かれている、といっていいと思います。

一方、石田母の対応ですが、ことばを荒立てることもなく、淡々と複雑な心情を語り静かに去っていく石田母ですが、よくよく考えてみると、

1)現時点での硝子の謝罪を拒絶している。
2)自分自身のことばも、相手の障害ゆえに届いていないことを自覚しつつ、あえて筆談ノートも使わず話している。つまり、直接自分のことばを硝子に伝えることも回避している。


西宮母のビンタでの対応がそれなりに将也とがっぷり四つに組んで同じ土俵に上っているのに対して、石田母はそもそも同じ土俵に乗ることなく(硝子の筆談ノートメッセージを読むこともなく、自分も筆談することもしない)、硝子とのコミュニケーションを「静かに拒絶して」去っていきました

これは、硝子の将也への行いに対する、硝子経んの反応として、表面上の「優しさ」とは裏腹に実は「厳しさ」が現れており、まさに「優しさの中の厳しさ」であると言えます。

実際、将也が第2〜3巻でやっていたことが、第6巻で硝子によってリフレインされている、という物語上の構造は明らかなので、そういう意味で「同じような場面」での西宮母と石田母の対応の違いは、間違いなく意識的に対照的になるように描かれているように思われます。

だとすると、Cocohanaで語られた、石田母・西宮母の「優しさ」と「厳しさ」の対照がいつどのように表現されるのか、という「伏線」については、「すでに真柴回までで描かれて、伏線回収済」と考えるのがいいと思われます。
posted by sora at 07:18 | Comment(2) | TrackBack(0) | 第6巻 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

第52話にみる、硝子の「防衛機制」とは?(6)

※このエントリは、第52話連載時に書いたものです。そのため、その後の連載の内容と齟齬があったり考察に変化がある場合があることをご了承ください。

さて、これまでのエントリで、硝子が、対人認知を実態以上に肯定的に認知することで、障害ゆえに相手の真意がよくわからない、というストレス状況を乗り越えてきたと考えられること、また、辛いいじめ経験を乗り越えるために、過去の記憶のうち、辛い経験の大部分を思い出さないような形で、「記憶の選別」をしていると考えられることについて触れてきました。

前者については、「認知的不協和理論」と呼ばれる考え方で説明できますし、後者については、(あまり理論的なものとして語るのは好きではないですが)精神分析における「抑圧」ということで、嫌な記憶は無意識のうちに意識上にあがってこないように操作され、「楽しかった過去の記憶」と「実際には起こらなかった楽しい空想」ばかりが表に現れてくるようになっているのだ、と考えることができます。

これらがあいまって、硝子の言動を外から見たときに、「聖人のよう」「こんな人はいない」といった評価(ないし批判)が与えられるような「硝子像」が形成されているのだと考えられます。

実際、以前のCocohanaのインタビューでも、大今先生は硝子の人物像について、「優しいとか強いとか弱いとかでああしているのではなく、彼女なりにいろいろ考えた結果、ああするしかなかったんだ」といった趣旨のことを言っています。
硝子の「聖人性」というのは、ステロタイプな「善良で誠実な障害者像」として描かれているのではなく、「硝子が身に付けた、生きのびていくための鎧」なのだと思っています。

硝子が身に付けた、この「鎧」は、結果としては適応的な態度になってはいるものの、健全な対人認知の発達だとは必ずしもいえません。
むしろ、対人関係において常に五里霧中のストレスフルな状況におかれ続け、実際にいじめられる経験を重ねたことによって、心を守るために発達した硝子の「防衛機制」である、と考えたほうがいいのではないかと思っています。

ですから、今後、硝子の側の「成長」がさらに描かれるのだとしたら、この「聖人性」の鎧を「脱いでいく」方向になるわけですから、硝子はこれから「聖人」ではなく、嫌なことをされたら嫌だと思い、ネガティブな態度をとられたときには不快に感じてそういう反応をする「普通の人間」に変わっていく、ということが(残りボリュームは限られていますが)描かれていくのかな、と思います。

そしてそれこそが、硝子を縛る防衛機制から自由になるという意味での「成長」となるわけです。
もしかすると、将也の過去のいじめに対しても、はっきりと「傷ついた」といって怒ったり悲しんだりする硝子、というのも見られるかもしれません。

タグ:第52話
posted by sora at 07:17 | Comment(3) | TrackBack(0) | 第6巻 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

第52話にみる、硝子の「防衛機制」とは?(5)

※このエントリは、第52話連載時に書いたものです。そのため、その後の連載の内容と齟齬があったり考察に変化がある場合があることをご了承ください。

というわけで、硝子が対人関係に対して妙にポジティブな価値観を持っているように見えるのは、逆に、対人関係においてストレスフルな環境にながくおかれ続けたことによる、認知的不協和解消のための価値観の変容という側面があるのではないか、ということを書いてきました。(いや、文章難しいですね。すみません…。)

それに加えてもう1点、硝子の「ポジティブな対人認知」について同じような意味での特徴があるように思われます。

それは、

硝子は、自分がされた嫌なことについての記憶をほとんど忘れているのではないか。

ということです。

今回、第51話と第52話で硝子の内面や過去の回想が描かれましたが、硝子の人格形成に大きな影響を与えたはずの過去のいじめ(水門小のいじめだけでなく、その前の第二小や、さらにその前もあったかもしれません)の場面はほとんど描かれず(池ポチャ事件の回想時の豆粒のような後ろ姿のみ)、また、きっと辛い思いを繰り返したであろう、西宮母からの「障害を倒して普通にならなければならない」というプレッシャーについても、描写はありませんでした。


第6巻175ページ、第52話。

これは、ページ数の都合で省かれた、という考え方もできるのですが、第52話の異様なまでのスローペースを見てしまうと、もし作者がそれを描きたかったら、いくらでも描くスペースは作れただろうと思えますので、作者はあえてそれを描写しなかったと考えるべきでしょう。

一方で、現実とは異なる、硝子が手に入れたかった小学生のころの幸せな生活の空想シーンや、高校になり将也が取り戻してくれた、そこそこ幸せな現実の生活の回想シーンは、大きなスペースを割いてしっかりと描写されています。


第6巻158ページ、第51話。

このような描写のアンバランスさはすなわち、硝子にとって、過去のいじめ経験や周囲からの「障害を乗り越えろ」というプレッシャーによる辛い経験などは、「ほとんど思い出すことのない小さな存在」であり、逆に過去の夢や最近の仲間などの楽しい経験は「しばしばはっきりと思い出すような大きな存在」である、ということを示しています。

ただ、このように楽しいことはよく覚えていて辛いことは忘れる、というのは一般的によくある傾向ではありますが、硝子の過去の経験を考えると、ちょっとアンバランスが過ぎて「聖人」のようにさえ見えます。

先にふれた「妙にポジティブな対人認知」に加え、このような極端な「良い思い出だけの記憶の選別、偏り」をみると、硝子はこれらのメンタリティをもつことによって、精神的なバランスを辛うじて保とうとしてきたのではないか、ということを考えずにはいられません

次のエントリに続けます。
タグ:第51話 第52話
posted by sora at 07:16 | Comment(2) | TrackBack(0) | 第6巻 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする