2014年12月13日

第53話の超難問、「夢」の終わりをどう読み解くか?(2)

※このエントリは、第53話連載時に書いたものです。そのため、その後の連載の内容と齟齬があったり考察に変化がある場合があることをご了承ください。

さて、第53話の3ページだけを徹底して読み解く連続エントリの2つめ、ここでは2コマ目を読み解きます。

2)「その時 誰かに手を引っ張られ ハッとした」のモノローグと、水中のような背景、左手を誰かにつかまれる描写。


第53話、3ページ。

2a)このシーンはいつのシーンで、
2b)このシーンの場所はどこで、
2c)手を引っ張っているのは誰なのか?


この3つはすべて連動しているので、まとめて考えないわけにはいきません。

そしてその前に、

2d)このコマが意味しているものは何か?

ということも考える必要があります。

まず2d)からいきますが、このシーンは、1つまえの1)のコマで「幸せな気分で眠りにつく」の「眠りにつく」の意味が「息を引き取る」の意味であって、そのまま「眠って」しまったら「死んでしまう」という状況を示しているのだと思います。

だから、誰かに手を引っ張られハッとした、というのは、そのまま放っておくと死んでしまったところを、誰かに手を引っ張られたことで「目が覚めた」=「生還した」ということを意味しているのに、間違いありません。

ですから、ここでの「誰かが手を引っ張った」という描写は、「死にかけていた将也を誰かが『手を引っ張る』ことで生還させた」という「意味」にならなければならない、ということになります。

そう考えたとき、この「手を引っ張る」シーンの答え、2a)~2c)の組み合わせは、以下の3つくらいが思い当たることになります。

ア)このシーンは将也のマンション転落時の川で、手を引っ張ったのは、そのとき将也を救出した島田。

イ)このシーンは第51話の「夢枕」で将也が登場した4月15日の「橋」。手を引っ張った、行かないでと懇願した硝子。

ウ)このシーンは第52話で硝子が駆けつけ、涙を落とした「橋」の下の川の中。手を引っ張ったのは、硝子の涙を見届けた「鯉」。


このうち、イ)は相当苦しいです。
まず、将也の腕が「裸」で、イ)のシーンならあるはずの冬服の袖が映っていませんし、このシーンなら「視点」は水中ではなく橋の上のはずです。
また、このシーンで硝子が引っ張っているのは「袖」であり、さらに「両手でつかんでいる」ので、このコマに描かれているようなイメージで腕をつかまれているのとはかなり状況が異なります。


第6巻164ページ、第51話。

ということで、イ)は(いったん)脱落です。

残るア)とウ)ですが、素直に考えると、ア)が出てくるでしょう。
このシーン、「視点」が水中ですし、花火大会のときの将也は半そでなので腕に「袖」が見えないのも合っていますし、「水中から引っ張られることで命拾いする」というシチュエーションとして実際にあったのはア)なわけですから、一見、ア)が正解なように見えます。

でも、ア)はア)で苦しいのです。
その最大の問題点は、時系列が壊れてしまうところにあります。

将也が島田から助けられたのは、当然ですが西宮宅のマンションから転落した直後です。
一方、将也がこの「手を引っ張られてハッとした」という「夢」を見ているのは、将也が昏睡から目覚める直前です。
そして、少なくとも最低限の時系列として、「手を引っ張られた」のは、その直前のコマの「幸せな気分で眠りにつく」の「後」であることは絶対に確実ですが、この「幸せな気分で眠りにつく」の「夢」は、硝子の第51話の「夢」との間にシンクロニティが生じていますから、やはり9月2日の夜でなければおかしいわけで、この「手を引っ張られた」夢を見たのは、やはり9月2日の深夜だとしか考えられません

そうなると、仮にア)だとすると、転落直後に誰か(実際には島田)に水中から引き上げられたイメージが記憶に残っていて、今回9月2日夜に、また死にそうになったところでたまたま(何もないところで)また同じイメージ(水中から引き上げられる)がわいて気がついて助かった、ということになります。

どうも、この場面で島田を思い出す必然性がまったくないのです。
なぜなら、この(ハッと気がついた)瞬間、将也を助けようと必死な気持ちでいたのは硝子であって、島田は関係ないからです。
どうせなら、夢枕で会った硝子に袖を引っ張られて気がつく、という、イ)の展開にもっていたほうが演出的にマシな気がします。

ここで、がぜん有力になるのがウ)の仮説です
もともと、第52話のラストの演出も、硝子の涙が橋の下の水面に落ち、その川のなかにいた鯉にその涙が「受け止められた」次の瞬間、将也が目覚めた、という流れでした。


第6巻181ページ、第52話。

ですから、2)のコマで起こったことは、1)のコマのあと、「死の眠り」についてしまいそうになった将也の夢に、川で「硝子の祈り」を受け止めた「鯉」が入り込んで、将也の腕をつかんで死の縁から引き上げて生還させた、という風に解釈する3)の読み解きが可能だと思われるのです。

考えてみると、そもそもマンションから転落したときも、将也の回りには鯉が泳いでいて、その「鯉」が島田らをして将也を助けさせたと考えることもできるので、そういう意味ではア)とウ)は意外と近いところにあるのかもしれません。
さらに、ここで将也の手が引っ張られたのは、硝子の「橋での想い」が通じたからなので、そういう意味では「気持ちとしては」イ)でもある、ということになります。

まあ、何でも鯉のせいにするというのもアレですが、ここは、

・「引っ張る」原動力は、イ)の「硝子の願い」であり、
・「引っ張る」という現象そのものは、将也の意識の深いところに残されたア)の「島田による転落時の引き上げ」の記憶が夢に現れたもので、
・それらをまとめあげて「奇跡」を起こしたのは、ウ)の「鯉」だった


という風に理解したいと、私は思っています。
posted by sora at 08:12| Comment(2) | TrackBack(0) | 第7巻 | 更新情報をチェックする

第53話の超難問、「夢」の終わりをどう読み解くか?(1)

※このエントリは、第53話連載時に書いたものです。そのため、その後の連載の内容と齟齬があったり考察に変化がある場合があることをご了承ください。

第53話前半の夢は硝子が第51話で見た夢とのシンクロニティが描かれており、単純にロジカルに読むよりも、オカルト的に盛り込まれた「意味」まで読み解いていくことが不可欠になっていると思われますが、そのなかでも屈指の難解な場面が、3ページ目の「夢」の終わり部分だと思います。

ここは、次のようなコマ運びになっています。

1)「そして幸せな気分で眠りにつく」のモノローグと、全裸でベッドに横になる将也。
2)「その時 誰かに手を引っ張られ ハッとした」のモノローグと、水中のような背景、左手を誰かにつかまれる描写。
3)「本当の俺たちは ドコへ行くんだろう」のモノローグと、教室に座る冬服姿の将也を窓の外から俯瞰した描写。
4)「本当のみんなは」のモノローグと、真っ黒な背景、硝子を含む高校編の全登場人物が去っていく後ろ姿の描写。
5)4)の登場人物が小さくなり、真っ黒な背景が画面全体を覆っていく。
6)真っ黒な背景に白抜き文字で「死ぬんだろうか」


全体としては、「将也はこの瞬間、生きるか死ぬかの瀬戸際にあった」ということが描かれていることは間違いないでしょうが、「それ以上」を読み解くのが至難の業です。

まず、それぞれのコマに潜んでいる「謎」を順に整理していくところから始めたいと思います。

1)のコマ


第53話、3ページ。

1a)横になっている将也は小学生?高校生?

このコマの前の2ページのラストでは、「中学でも 高校でも」というモノローグがあり、それぞれのコマの将也は、小学生の格好のままで成長した「中学生の将也」「高校生の将也」に見えないこともありません。
だとすると、1)のコマで横になっている将也は「高校生の将也」ということになります。
実際、第1巻で描かれていた小学生将也より、このコマの将也のほうが歳をとっているようにも見えますが、どうでしょうか…?

ただ、第51話の硝子の夢とシンクロさせるなら、この将也は「小学生」ととったほうがシンクロ率が高まります。(その場合、その前の2ページのラスト2コマでも、将也は小学生のままということになります)

この「謎」については、私は、

このコマの将也は小学生である可能性が高い。

と考えます。

大今先生が、小学生将也と高校生将也をどう描き分けているかをいろいろ比較して考えてみたのですが、どうも「顔の縦方向の長さ」が最も大きな描き分けファクターであるように思われます。
これは、佐原回での硝子の描きわけでも示されましたが、小学生将也の顔が、概ね縦と横が同じ比率に描かれているのに対して、高校生将也では明らかに「縦長」に描かれています。

そういう基準で1)のコマを見てみると、このコマの将也の顔のタテヨコ比率は1:1にかなり近く、この比率で描かれているこのコマの将也は「小学生」である可能性が高い、という結論に至りました。
そうなると、2ページのラスト2コマも、小学生のままの将也が描かれている、ということになります。


1b)なぜこんなに痩せているの?

1)のコマの将也のもう1つの謎は、身体が異様に痩せ細っていることです。
第1巻に登場した小学生時代の将也は中肉中背で、この1)のコマのようなやせぎすではありません。

だとすると、このコマの将也は、

病室のベッドで横たわり、やせ細った将也が見ている「小学生の頃の夢」であるために、顔は小学生に戻っているけれども身体は現状のやせ細った状態になっている。

と読み取るほかないでしょう。
そして、夢のなかの小学生将也がやせ細っているのは、楽しい夢を見ているのだけれども、実際には衰弱して生命の危機が近づいてきている、ということを将也自身が暗に察していて、夢の中でその部分(体格)だけが「現状」を反映してしまったんだ、ということになると思います。


1c)なぜ全裸で寝ていて、ベッドの上にタオルみたいなのがあるのか?

これを考えることは、結果的に1a)の推理を補強することになります。
このシーンで描かれているベッドとゼブラ模様の枕ですが、これは第1巻を見ると分かるとおり、小学生の将也が使っていたものです。


第1巻18ページ、第1話。

そして、自殺を決意したときに全部売り払っており、それ以降は真っ白な布団に寝ています。
つまり、この1)のシーンの将也はやはり小学生で、恐らく、前のページで立っていた橋から川に飛び込んでシャワーを浴びて、タオルで身体を拭いた後そのままベッドに入っている、そういう「設定」なんだろうと思います。

つまり、1)のコマは全体として、仲間と橋から川に飛び込んで盛り上がっていた、小学生の頃の楽しい思い出をさらに「美化」して、耳の聞こえる硝子とも仲間だった、そんな「小学生の頃の夢」のラストを表現しているのだ、と「読み解く」のがもっとも妥当であるように思われます。
ラベル:第01話 第53話
posted by sora at 08:02| Comment(0) | TrackBack(0) | 第7巻 | 更新情報をチェックする

硝子と将也、ふたりの「告白」を比較してみる

※このエントリは、第54話連載時に書いたものです。そのため、その後の連載の内容と齟齬があったり考察に変化がある場合があることをご了承ください。

第54話の将也の「君に 生きるのを手伝ってほしい」というのは、将也から硝子への事実上の「告白」だったと言っていいと思います。


第54話、15ページ。

そして、聲の形で「告白」といえば、なんと言っても第23話の硝子からの告白を思い出します。


第3巻178~179ページ、第23話。

第23話の硝子の「告白」と第54話の将也の「告白」、比べてみるといろいろと興味深いことが見えてきます。

1)前回は硝子から、今回は将也から。

2)前回は伝わらなかった。今回は伝わった。

3)前回は6月3日、今回は9月3日

4)前回は満月の夕刻、今回は月のない闇夜。

5)前回は口話で、今回は手話で。

6)前回は過去と向き合っていなかった。今回は過去としっかり向き合えた。

7)前回はダイレクトな感情表現、今回は間接的だけれどむしろずっと深い親愛の情の表現。

8)告白の前後で登場したサブキャラは、前回が佐原・結絃、今回が石田母・西宮母・結絃。どちらにも登場しているのは結絃のみ。

9)前回・今回、どちらにも「鯉」が近くにいる

10)前回は「橋」に将也が行ったら硝子がいなかった、今回は「橋」に将也が行ったら硝子がいた


このなかでも、比べてみて初めて気づいたのが、3)の日付の件です。
2回の「告白」、どちらも「3日」に行われていて、ちょうど3か月違いになっていたんですね。(その3か月の間に実にいろいろなことがありましたが…。)

第23話での硝子の告白は、最初に読んだときはこの作品の雰囲気を一気にラブコメ一色にする、非常に甘酸っぱいシーンに感じられましたが(恐らく多くの読者にとってもそうだったのではないでしょうか)、それにしては将也が「小学生将也」を殺しているシーンが「告白」直前に差し込まれていたりと微妙に不穏な演出が混ぜ込まれていました。


第3巻176ページ、第23話。

その「不穏さ」は第5巻の後半で一気に露呈し、あの「告白」が実は「通じ合わない『こえ』」の象徴として残酷に描かれていたことに気づかされたわけです。

そして、最初の「告白」から3か月、それぞれ死の淵から這い上がってきたふたりは、今度こそお互いの「こえ」を通わせることができました。
現状を見るなら、あのとき硝子の告白が将也に届かなくてむしろ良かった、とも思えますし、逆説的に言えば、あのとき硝子の告白が届かなかったのは「必然」だった、とも言えるのかもしれません

そして、今回、第54話の「告白」は、結果的にダイレクトなものにはなりませんでした(みんなが探しにくるのがもう少し遅ければ、もしかしたらという感じでした)が、もう「気持ち」は十分すぎるほど伝わっているので、もう再度の告白イベントは発生しないかもしれません。

でも一方で、第4巻の番外編で硝子は「練習」してますし、この練習の成果を活かすために、将也も「ちなみに 俺はさ」の続きを言って、お互いに告白し合うという展開の可能性もまだ残っていますね。
ラベル:第54話 第23話
posted by sora at 07:39| Comment(4) | TrackBack(0) | 第7巻 | 更新情報をチェックする