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2014年09月20日

第6巻は第2巻だけでなく第1巻のリフレインでもあった?(3)

一方の将也です。

将也も、第53話で硝子とそっくりの夢を見ます。
もともとここはオカルト的ですが、今回の読みときにしたがうなら、硝子が映画再開にこぎつけ、水門小を訪れたことでふいに現れたパラレルワールドに将也も迷いこんでしまった、と受けとるのが自然だと思います。
このパラレルワールドについて、硝子が「主」で将也が「従」であることは、将也がこのパラレルワールドを明確に「夢」だと認識して見ていることで示されていると思います。

そのパラレルワールドでは、やはり硝子は障害をもたずクラスに溶け込んでおり、しかも島田や広瀬との関係も良好なままです。
さらに、将也は硝子とも仲良く過ごしています。
こちらの夢も、「第1巻」の悲劇が何も起こらなかったら、という将也の側の願望を実現した形での第1巻のリフレインになっていることが分かります。

ところが、このパラレルワールドは、「高校生将也が登場しない世界」です。
将也の「夢」も、万事うまくいっている小学生時代で具体的映像が終わり、そのまま水?の中に沈んでいきます。
将也は、このままパラレルワールドに沈んでいくことは「死ぬ」ことであることを自覚します。

そして、このまま夢のなかで「沈んでいく」か、夢と現実は異なる、過去は変えられないし、本当の意味で過去を取り戻すことなんてできないということを受け入れて、「現実に戻って生き続ける」かのぎりぎりの選択を迫られて、「死んじゃダメだ!」と、「現実で生きる」ことを選択します。

次の場面で、将也が硝子が泣く橋の映像を「透視」したのは、第1巻をパラレルワールドに迷い込んでそこでリフレインしてしまった将也(と硝子)が、改めて「現実」の世界に戻ってくるためには、両者の世界のストーリーの分岐点となる第6話の橋の場面で「出会う」ほうを今すぐやり直さなければならない、ということが示された場面である、と理解したいと思います。

こうして、将也も硝子も「パラレルワールド」ではなく、「現実」を選択しました
ただ「現実」を消極的に受け入れるのではなく、夢がかなった「パラレルワールド」を経験したうえで、それでもなお「現実」を積極的に選択したのです。

これは、硝子にとっては、自らの障害をありのままに受け入れ、いまの人生を肯定的に受け止めること、つまり「障害受容」の決定的な前進になっていることは間違いありません。

同様に将也にとっても、とらわれつづけていた過去の幻想から卒業し、過剰な自己嫌悪を解消し、硝子との「いまここ」の関係を作っていくための大きな前進となるできごとになっているはずです。

このように、第43話「度胸試し」から第53話での「再会」までは、第1話で「度胸試し」を繰り返している場面から第6話での「再会」までを、「もしいまの二人が当時失ったと感じているものを手に入れていたら」というifのもとにリフレインした物語になっていると読み取れます。

そして、そのifでふたりが気づいたことは、「失ったばかりだと思っていた『現実』のなかでこそ手に入ったものがあり、それこそがいま本当に大切なものである」ということ。だから、いまなら「現実」を受け入れて積極的に肯定することができるんだ、ということです。

第53話での「再会」は、第6話での「再会」によく似ていますが、この間にふたりは大きく成長し、今度こそ自分を、相手を受け入れて、成熟した関係を作っていけると確信しています。
posted by sora at 09:59 | Comment(4) | TrackBack(0) | 第7巻 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

第6巻は第2巻だけでなく第1巻のリフレインでもあった?(2)

将也にとって手に入れたかったものとトラウマ。
それは、島田や広瀬とのかつての楽しい生活がずっと続いていく毎日と、硝子をいじめてしまったという事実を取り消したいという想いでしょう。

硝子にとって手に入れたかったものとトラウマ。
それは、かつてのクラスメイトとも、家族とも明るく幸せに過ごせる日々と、それが障害ゆえにかなわなかったという挫折と絶望でしょう。

それが「現実の世界」です。

でも、将也が自らの命を賭けて硝子を救出し、自らが身代わりに転落するという「大きな事件」を起こした瞬間に、「パラレルワールド」の入り口が口を開いたのだ、と思います。

それが、上記の将也・硝子が「手に入れたかったもの」が手に入っていて、かつトラウマもない、そういうパラレルワールドです。

言い換えると、

「第43回度胸試しが小学生のうちに当たり前に実現していた世界」

が、将也と硝子の前に口を開いて現れたのです。

そのパラレルワールドは、「夢」として、第1巻の物語をリフレインする形で、ふたりの前に現れました。

硝子に障害がなくクラスメートに溶け込んでいて、将也と島田・広瀬らとの関係も変わらず、子どもっぽい乱暴な遊びを続けている、当然、硝子が孤立したり将也からいじめられたりすることもない、そんな「魅力的な」世界です。

でも、そんな「平和な小学生生活」が実現したパラレルワールドでは、当然にその後の未来が大幅に修正されます
将也が、高校になって硝子と再会する必然性も、硝子のために「諦めたものを取り戻す」展開もなくなってしまうのです。

第51話で、夢枕に現れて「俺がいなくても万事OK」と言っていたのは、(この読み解きにしたがえば)実はパラレルワールドの将也だったのです。


第51話、15ページ。

パラレルワールドでは、将也は高校になっても硝子に会いにくることはないでしょう。
まあ、そもそも硝子が手話サークルにいることもないわけですが、ふたりにとって「高校になって再会した場」があそこなので、便宜的にあの場面を使って、パラレルワールドの将也が「こっちの世界では『高校になってから再会する俺』は登場しないよ」と説明しにきた、と考えればいいんじゃないかと思います。
そしてそのあと、「パラレルワールドの将也」は、「俺がいなくても(このパラレルワールドでは)万事OK」と語り、「じゃーな」と言って去っていきます。


第51話、17ページ。

去っていくときの将也が小学生なのは、「このパラレルワールドでは、俺とは仲がいいまま小学校卒業と同時にばらばらになってそのまま関係が途絶えるんだよ(高校生の姿で現れたけど、そもそもそんな再会自体がこのパラレルワールドでは起こらないんだよ)」ということを示しているのではないかと思います。

そしてこのとき、実はこの「パラレルワールド」は、「現実の世界」をある意味飲み込みかけているのです。
硝子(と将也)の前に、「ふたりの願望が実現したパラレルワールド」が口を開けたとき(ふたりがパラレルワールドの夢を見たとき、つまり9月2日の深夜)というのは、恐らく、「将也の体力が衰え、死の淵に近づいている」瞬間だったのではないかと思います。

第1巻で「悲劇」を経験し、第2巻で「再会」したふたりは、お互い、「自分を否定し、過去を否定し、かつて夢見ていたもの、手に入れたかったものを取り戻す」ことを目指していました。
それは言い換えると「現在において、過去を書き換えようとする」という試みである、とも言えるのではないでしょうか。

その試みは、かつて流れてしまった「第43回度胸試し」が実現し、それに続く硝子の映画製作再開も実現したことで、ある意味「成就した」と言えます。
そして、映画のために水門小学校でロケハンし、かつての教室に入ったところで、硝子は「パラレルワールド」の入り口に入り込んでしまいました。

パラレルワールドの中には、硝子の「幸せな小学生生活」がありましたが、そのままその世界にいたら、「高校になって筆談ノートを持って会いに来る将也」は登場しないことが示されました

ここで、硝子は悟ったのだ、と思います。

ずっと夢見ていた世界、そこは確かに平和で楽しい場所かもしれないけれども、そこでは手に入らず、辛いことのたくさんある「現実の世界」でだけ手に入ったものもあるんだ、ということに。

そして、いまの硝子にとって、それこそがもっとも大切なものなんだ、ということに。

あのまま「夢」を見続けたら、硝子は「パラレルワールド」に飲み込まれ、将也が息をひきとるという形で、夢枕将也の「じゃーな」が現実のものとなってしまっていたでしょう。

でも硝子は、そうしませんでした。
「夢」を断ち切って、「現実」の橋に走りました

そう考えると、硝子が病院ではなく、橋に向かったことが必然であることが分かります。
「パラレルワールド」では「起こらなかったこと」にされてしまいかねない、「第6話の再会」を、「現実の世界」でリフレインするために、第6話の舞台である「橋」に向かう以外の選択肢はなかったわけです。

そして、橋で思い出したことは、「現実」の世界では硝子に障害があり、さまざまな辛いことがあって、でもだからこそ生まれた将也との再会と、そこから展開されたさまざまな出会いの場面でした。

硝子は、「パラレルワールド」を捨て、「現実」を選択したのです。
あとで触れたいと思いますが、これは硝子の「障害受容」にとっても決定的に重要な選択であったと思います。
posted by sora at 09:54 | Comment(0) | TrackBack(0) | 第7巻 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

第6巻は第2巻だけでなく第1巻のリフレインでもあった?(1)

どんだけリフレインネタが好きなんだよと言われそうですが(笑)、一度気がつくとどうしても気になってしまうので、興味のある方だけお付き合いください。

先日もエントリを書いたように、将也転落事件からの硝子・将也の動きは、ふたりが再会後、かつての仲間を集めていく第2巻〜第3巻のリフレインになっているのだ、という目でずっと読んできたのですが、改めて第53話を読んでみると、それとは全然違うもう1つの「リフレインの構造」があることに気づきました。

それは、

第6巻から53話までの物語は、第1巻から第6話までの物語をもリフレインしている。

ということです。

これは、第53話で将也に振り向いたときの硝子が、第5話で将也に振り向いたときとそっくりな表情をしていることなどからもうかがえます。


第53話、14ページ。


第1巻190ページ、第5話。

考えてみると、第1話は、将也の提案した「第43回度胸試し」が、島田からも広瀬からも拒絶されて流れてしまい、将也は一人で家で遊ぶという、「将也にとって永遠に続くと思われた楽しい毎日」が壊れていくところから話が始まっています。
そして、その「壊れていく関係」を埋め合わせるように、将也は硝子をいじめて「仲間関係」を維持するためのネタにするわけですが、やがて将也はそれらのツケをすべて払わされて孤立し、そんななかで、結果的に唯一の「救い」となった硝子に、高校生になってから手話を覚えて会いに行きます。

そして、第6巻、特に第51話から第53話(53話は7巻の予定ですが)で描かれているのは、実は、

第43回度胸試しが小学生の時に流れずに行われていたときのifの世界

でもある、と思ったのです。

第43話のサブタイトルが「度胸試し」で、これは第1話でお流れになった「第43回」の度胸試しが、5年の歳月をへて行われた、という、大今先生の壮大な「構成マジック」であることは疑いを入れません。
そして、その後の第50話・第51話によって、将也がマンションから川に転落する「度胸試し」を行ったとき、かつて一緒に度胸試しで遊んでいた島田と広瀬もその場にいたことが示されました。


第51話、4ページ。

つまり、

高校になってからの「第43回」度胸試しは、将也・島田・広瀬・硝子の4人で行われた。

ということになるのです。

そう読み解いたとき、第51話から第53話までの、硝子・将也の「夢」を中心にした不思議な物語は、まったく違った色合いを帯びて見えてくることに気づきます。

第6巻におけるサブキャラ視点回(結絃を含む)を全部すっ飛ばすと、第43話の次は第51話の硝子視点回となります。
第51話では、その冒頭で第43話の将也転落直後のエピソードが語られ、時系列もつながっていることが分かります。

そして、その場面で、「第43回度胸試し」の場面には、かつての将也グループ3人に硝子を加えた4人がいたことが示されたあと、映画撮影再開のシーンをはさんで、不思議なシーンが展開されます。

硝子が障害なくふつうに聞こえ、ふつうに話し、クラスメートと溶け込んで楽しく生活しているという硝子の「空想」です。

この場面は言うまでもなく、第1巻で描かれた「硝子に障害があるためにクラスメートとも溶け込めず、孤立してしまった」という「現実」との対比です。

そしてそのあと、なぜか将也が硝子の夢枕で「手話サークル」と「橋」に現れます。
この場面は、手話サークルの場面だけでなく「橋」の場面も、初めて再会した日のイメージであることは既に考察済みですが、ここで登場した夢枕将也は、実際に再会したときとはまったく違って、筆談ノートも持っていなければ硝子に対して「友達になれるか」とも言わず、ただ「俺がいなくても万事OK」とだけ告げて「じゃーな 西宮」と言って去っていってしまいます。しかも去っていくときには小学生の姿に戻っています

この、第51話前半の「自分に障害がないという硝子の空想」と、後半の「将也が『じゃーな』と言って去っていく夢」は、実はつながっているんだ、ということに、ようやく気づきました。
そして、第53話で将也が見た、硝子の「空想」とほとんど同じ夢も、もちろん(この読み解きにしたがう場合には)つながっています。

つまり、これらの「空想」「夢」は、硝子と将也、いずれもが抱えているトラウマがないというか、「かつて手に入れたかったもの」が手に入っている状態で話が進む、「パラレルワールドでの『聲の形』」であり、それは当然に第1巻のリフレインにもなっている、ということなのです。

次のエントリに続けます。
posted by sora at 09:42 | Comment(0) | TrackBack(0) | 第7巻 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする